PLACE: 国営ひたち海浜公園
8:00 / 10:30
11500〜3000
当ライブはメールによるチケット予約を承っておりません。各プレイガイドでご購入下さい。
ACT
澤田から「ライブレポ書いて」って言われたので書きます。
15:40ごろ、毛皮のマリーズを楽しんだ大量の観客を吐き出してガラガラになったウィングテントで、未完成VS新世界のサウンドチェックが始まった。
普段のライブの時と同じように、安田はこぶりなエフェクターケースの中の機材類を接続していき、澤田は肩から提げたくたびれた鞄からシールドやエフェクターを取り出していく。一度は機材保護の観点から、エフェクターケースを使いかけたのだが、重たくて面倒だからなのか、すぐにやめてしまった。ズボラな男だと思う。
一通りセッティングが終わって、バンドでいっせいに音を出すという段階で、思いがけない出来事が起きた。最近のライブのセットからは外されており、『夕暮れ狩り』にも収録されていない「スピッツの言いなり」を演奏しだしたのだ。最初は若干、力をセーブしている様子も見られたのだが、曲が進むにつれてテンションが上がり出したのか、中盤以降は普段のライブ同様に熱のこもった「ガチ」モードに。出し惜しみという言葉を知らないのか、この男達は。
しかし、この「スピッツの言いなり」を契機に、ウィングテント内には観客がどんどんと増えていった。最初は数えられる程度だったのに、気付けばテント内の人口密度は半分を超えている。
PAからの「音の調子は大丈夫か?」という質問に対して、澤田は「我々は大丈夫です」と答えた。緊張しているのか、語気は変だったが、何はともあれ、全ての準備は整った。メンバーはバックステージに戻り、テントにはSEとしてKICK THE CAN KREWの「アンバランス」が流れ出す。「階段を上がるなら、そう今じゃない、今はアンバランス」。バックステージにいる今の彼らにはあまり聴かせたく無い歌詞だ。
やがて、SEが止まり、素っ頓狂なアコーディオンの音色が響きだす。ピッピ隊音楽部の「私の彼氏」。彼らがまだ札幌にいた頃から使い続けている出囃子だ。音楽に合わせて客席から手拍子が発生する。そして、ステージ上にメンバーが現れた。未完成VS新世界のROCK IN JAPAN初舞台が幕を切る。
簡単な自己紹介の後、すぐさま1曲目、まだ名前が無い新曲が始まる。最初から最後まで熱量高めの演奏で、ウィングテント内は一気に未完成VS新世界の色に染められて行く。極めてパーソナルな「僕と、君と、音楽と、それ以外の世界」に関する言葉を顔を歪ませながら吐き出して行く澤田。しかし、間奏でテレキャスターを掻き鳴らしている時には笑顔を覗かせた。よし、大丈夫。ちゃんと、この場を楽しめている。
続けざまに投下される2曲目は山下敦弘監督の同名映画から題名を借用した「どんてん生活」。「雨なら外に出たくないなと思ってしまう/晴れても外に出たくないなと思ってしまう」。どうしようも無いにも程がある歌い出しが始まった瞬間、客席の一部からは「きた!」という反応。まだまだ微かな反応では有るけれど、「どんてん生活」は未完成VS新世界の顔役の曲として成長しつつあるようだ。
3曲目はぐっとペースを落として始まる「ケーキをつくる」。もう何回も、何十回も聴いている曲なのに、それでもまだ飽きないのは、メロディの抜群の良さに依るものなんだろう。未完成VS新世界のメロディは、懐が広い。あっと驚く器用さや、緻密さは無いが、何度でも味わえる大らかさをたずさえているように思う。
緊張のあまり、無茶苦茶なテンションになっている安田のはちゃめちゃなSEと、ある種の誤解を招きかねない奇行を経てライブは後半戦に突入。
4曲目、CD未収録の「こわい話」によって、MCで過剰にほぐれた客席の雰囲気は一気に引き締め直される。演奏中、ふと客席最前列から後ろを振り返ってみると、数えきれない程の観客が、決して派手では無いまでも、各々が未完成VS新世界の音楽を楽しんでいる様子が伺えた。リズムにあわせて体を揺らす人や、要所要所で拳を振り上げる人、タオルで目元を押さえる人、その反応はそれぞれ違っていたけれど、未完成VS新世界という小さなチームが作り上げた雰囲気は、テント内に着実に浸透していた。
5曲目は、CDよりもテンポ速めかつ、若干ラフな演奏による「消えないための方法」。こちらも「どんてん生活」同様に「おなじみの曲」感が客席から発生していて、ライブはさらに盛り上がりを高めていった。それにしても、3ピースで、特に大したエフェクターも使っていないし(安田はコンプと歪みとD.I、澤田に至ってはBOSSのDS-2という安いディストーションだけ)、特にテクニカルでも無いにも関わらず、未完成VS新世界の演奏は妙に迫力が有る。幾つかの曲で、間奏で一気に演奏のボルテージが上がる局面が有るのだが、暴走するやり切れない感情をそのまま音像化したかのような轟音の波は、時に身の毛がよだつ程の凄みを発揮するのだ。
ラストは、またもや名前の無い新曲。未完成VS新世界の今までの曲の中でも切実さという面では一、二を争うあの歌詞は、3000人規模のウィングテントの中で、どれだけの人の胸に突き刺さったのだろうか。30分程度という短い時間では有ったものの、全ての力を出し切りながら、観客に対して、そして自分達自身の理想とする音楽に対して、真摯かつ誠実であらんとする彼らの姿は、どこまで突き刺さったのだろうか。正確な事なんて分からないし、無責任に「完全勝利」とも「ウィングテントを掌握」とも言えないけれど、ライブが終わった時の観客の反応や表情は、事前に予想していたそれよりもずっとビビッドで、今後に繋がって行く何かを期待させるものだった、ぐらいの事は言っても良いんじゃないかと思う。
セットリスト
- 新曲(サビが「例えばの話」の曲)
- どんてん生活
- ケーキをつくる
- こわい話
- 消えないための方法
- 新曲(冒頭で斉藤和義を引用してる曲)
以下は余談。
ライブが終わった直後の澤田と安田は、服を着替えもせずに、そのままフラワーカンパニーズ、サンボマスター、イースタンユース、サカナクションを普通に観客として観に行くという、出演者らしからぬ行動を繰り広げていましたよ。「無名である事を最大限に利用」だってさ。